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​リンパ浮腫治療成績

 現在国際的にリンパ浮腫の標準治療とされている 2段階治療プログラムからなる複合的理学療法は、 治療施設における用手的医療リンパドレナージ・多層圧迫包帯・圧迫下運動療法・スキンケアにより患肢の縮小に努める治療期と、患者自 身が自宅において縮小した患肢を用手的医療リンパドレナージ・弾性着衣着用(夜間は多層圧迫包帯)・スキンケアにより維持していく維 持期で構成されます。(Yamamoto R, Yamamoto T: Int J Clin Oncol, 12:463-468,2007)

 当クリニックにおいては、治療期 は通常月曜日から1日1回60 -90分を連日外来治療として行っています。治療日毎の患肢容積と超音波エコー所見の変化を評価し、リンパ浮 腫の改善が得られていることが確認されれば治療期治療をそのまま継続し、また改善が停止したと判断された場合はその時点で維持期へ移 行します。

 治療期治療が1週間を越える場合は、土曜日から翌週の月曜日まで48時間多層圧迫包帯を継続することとなりますが、治療期を月 曜日から開始した場合、治療期における 6治療日から7治療日にかけての患肢容積変化はそれ程大きくないため、この時期に多層圧迫包帯を 48時間継続し圧迫下運動療法を行っても包帯類に大きなずれを生ずることはありません。

上肢(左)及び下肢(右)の多層圧迫包帯による治療

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは日本人片側性下肢リンパ浮腫患者に対して 2段階治療プログラムからなる複合的理学療法を行い、治療期における治療効果と浮腫の改善パターンを前方視的に検討し報告しました。

 この 検討における対象患者の多くは、リンパ浮腫発症後これに対し弾性ストッキングの着用や空気圧迫機器などによる治療を行ったにもかかわらず 無効であったという経験を持っていましたが、それら前治療に関するすべての正確な情報(サイズ・圧力・使用期間など)を得ることは不可能 であったため、前治療の有無は無視して検討を行っています。  

 その結果、日本人下肢リンパ浮腫患者では、中央値5 回の治療により患肢容積は1,576 ml減少し浮腫減少率は73.5%、上肢リンパ浮腫患者では 4 回の治療により262 ml減少し、浮腫減少率は59.1%でした。

 浮腫の改善パターンを図に示しますが、治療開始直後24時間及び48時間での浮腫容積残存率 はそれぞれ48.6%と36.0%であり、著明な浮腫の改善はほとんど治療開始後3日で得られており、それ以降の縮小は1日あたり1.0%以下でした(Yamamo to T, et al: Lymphology, 41 :80-86,2008)。

 本邦において2段階治療プログラムからなる複合的理学療法を行った場合、 2008年4月から維持期で用いる弾性着衣が健康保険の適応とされましたが、「弾性包帯については、弾性ストッキング、弾性スリーブ及び弾性グローブを 使用できないと認められる場合に限り療養費の支給対象とする。」とされているため、維持期に弾性着衣を使用することを前提とした2段階治療プログラ ムからなる複合的理学療法では、治療期に要する費用はいまだ健康保険適応外で患者の全額負担のままとなっています。

 

 現在リンパ浮腫の治療法として最も科学的根拠のレベルが高く、また長期的予後の確立した治療法は、2段階治療プログラムからなる複合的理学療法です。 しかし本邦のリンパ浮腫治療においては、健康保険制度上の問題あるいは治療施設の不足によるものか、いまだに2段階治療プログラムからなる複合的理学 療法が第一選択とされない場合が多いのです。  

 弾性ストッキングは主に、リンパ浮腫が治療により減少した状態を維持するためのもの、あるいはこれ以上の浮腫の増悪を防止し現状を維持するものです。 弾性ストッキングは、浮腫の縮小目的で着用してもその治療効果は多層圧迫包帯に比較し劣ることが報告されており、明らかに腫大した患肢を短期間に縮小 させるためのものではありません。また国際リンパ学会は、リンパ浮腫で腫大した患肢に包帯などで強圧を加えることはリンパ管の損傷をきたす可能性があり これを避けるべきとしています。

 

 空気圧迫機器による治療は、無作為化臨床試験により乳癌治療後のリンパ浮腫では有意な治療効果が得られなかったことが明らかとされており、下肢リンパ 浮腫に対する治療も含めその単独使用に反対する報告が多くみられます。

 国際リンパ学会合意文書では「間欠的空気圧迫療法は、四肢近位部および生殖器近傍 のリンパ浮腫を増強し、輪状に繊維化し硬くなることと腹水の貯留に注意すべきで、単独で使用しても効果は乏しい。」としています。

( 日本リンパ学会雑誌 山本 律 ほか: リンパ学, 32 (1) :15-19, 2009 改編 )

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